石川五右衛門に学ぶ「不正防止策」

庶民のヒーロー石川五右衛門

「石川や 浜の真砂は 尽くるとも 世に盗人の 種は尽くまじ」

これは、大泥棒石川五右衛門が捕らえられ、「釜茹で」により処刑された時に詠んだといわれる辞世の句です。

石川五右衛門は実在の人物ですが、五右衛門伝説を基に、彼を主人公にして創られた歌舞伎が「楼門五三桐(さんもんごさんのきり)」。ストーリーは、大泥棒の五右衛門が育ての父・武智光秀(たけちみつひで)(もちろん明智光秀がモデル)の敵(かたき)を討とうと、時の権力者である真柴久吉(ましばひさよし)(こちらは豊臣秀吉がモデル)の命を狙います。

五右衛門が、金持ちから財宝を盗むあざやかな手口と権力者相手に親の敵を討つという物語は江戸時代の人々の人気を呼び、五右衛門は庶民のヒーローとなりました。

泥棒をはたらき、追手に追われる五右衛門が、京都・南禅寺の山門の上で、夕暮れ時の満開の桜の花を眺めながら語る「絶景(ぜっけい)かな 絶景(ぜっけい)かな。 春の眺めを値千金とは小せえたとえ。この五右衛門の目からは値万両、何万両。 はて、うららかな眺めじゃなあ 」というセリフは有名です。しかし、いくら後世で人気が出たといっても、処刑されるくらいですから、相当な悪人だったといえるでしょう。

前置きが長くなりましたが、今回の「経理のコラム」は盗人がテーマです。

それでも起こる横領・着服

盗人といっても、窃盗ではなく横領・着服の話です。横領・着服は会社に金銭的な損害を与えるだけでなく、会社の信用をおとしめることになるわけで「釜茹で」級の重大犯罪です。不正経理による横領・着服事件は、しばしば新聞紙上を賑わせ、五右衛門の辞世の句ではありませんが、いつまでたってもなくなりません。

記憶に新しいところでは、昨年5月に岐阜県下呂市の市営観光施設で約2千万円の使途不明金が見つかり、その後不正の一部を認め行方不明となっていた元会計担当の職員が焼けた車の中から遺体で発見されたという事件がありました。自殺と見られています。

その後の調査で、死亡した元職員は9年間にわたり、総額2億6千万円を競馬や外国為替証拠金取引などに流用していたことが分かりました。元職員が市に提出した通帳のコピーは改ざんされており、架空業者などへの支払いがあったようです。新聞は「元職員が長期にわたり同じ職にあったことから、不正が見逃されてきた」と報じています。

なぜ、不正はなくならない?

不正のなくならない原因のひとつに、そんな悪意のある社員が存在することが想定されていないということがあると思います。しかし「うちの社員に限って・・・」という言い訳は通じません。

逆に「不正を働くのはモラルの低い特定の社員」という考え方も間違っています。多くの場合、いわゆる「フツーの社員」が不正を犯すことが多く、周囲も疑いを持たないため結果として被害額が多額になるケースが散見されます。
不正の原因を考えるのに「不正のトライアングル」という理論があります。「動機」「機会」「正当性」の3つの要因がそろった時に不正が行われるという考え方です。その要因とは次のようなものです。

・動機…不正を犯す必要性 
(例)借金がある。上司を困らせたい

・機会…不正を犯しやすい状況 
(例)通帳や印鑑をひとりで管理している

・正当化…不正行為を正当化する考え方 
(例)会社の備品の持ち帰りや経費での飲食など、みんながやっている
   会社は自分の給料を上げてくれない

すべての人が善人というわけではないので「性善説」で会社を守れないことは、過去の例からもはっきりしています。従って「性悪説」に基づいた不正防止対策としては、人間はだれも「動機」と「正当化」の要因は持ちうるものであり、ルールを厳格化し、徹底的に「機会」を失くす体制に改めるということになるでしょう。

「性弱説」とガバナンス

そんなガバナンス(内部統制)のあり方を考えている時に教えていただいたのが「性弱説」という考え方です。教えてくださったのは、かつて上場企業の社長、会長を歴任された名経営者です。その方が部下を指導・管理する際に、常に頭においていたのが「性弱説」だと言います。

「性弱説」とは、例えばいくら見た目は屈強な男性でも、人というものは非常に脆く、弱いものであり、積極的に悪いことをしようと思ってはいないのに、上司からのプレッシャーや周囲からの評判、見栄などの環境や状況によって悪いことをしてしまうという説です。

2015年に歴代の3人の社長が辞任に追い込まれた東芝の不正会計問題は「性弱説」で読み解くことができるでしょう。この問題を調べた第三者委員会の調査報告書によれば、歴代社長らが各部署のトップと面談する「社長月例」では「チャレンジ」と称して高すぎる収益改善の目標値を設定、強要。 

各部署のトップらは目標を必達しなければならないというプレッシャーを強く受けたと指摘しました。そして、圧力を受けた各部署は悪いこととは知りつつ、抗う事はできず、さまざまな方法で利益を水増しし、それが積み上がっていきました。ここに人間の弱さというものを見る気がしますが、経営陣も水増しを認識し、これを放置・継続した結果、利益操作は2008年度から14年度の4~12月期まで計1562億円にのぼりました。

不正会計問題は東芝のブランドイメージを大きく傷つけただけでなく、投資家の信頼をも裏切り、結果として稼ぎ頭であった半導体メモリー事業を売却するなど大きな痛手を受けたのです。

企業のガバナンスに完全な仕組みはないと思いますが、規則や規制を強めるだけでなく、フツーの社員が何かをきっかけに不正に手を染めるような状況を作らないようにするバランスのとれたガバナンスが必要だと考えます。

経理業務に潜むリスク

経理業務の改善とは

さて、経理業務は属人化、ブラックボックス化しやすい最たる業務です。言葉を換えれば不正の機会をもたらしやすい業務といってよいでしょう。しかし中小企業の場合、人手不足や実務研修の時間が取れないなどの理由から、上述した下呂市の事件のように長年、同じ人がずっと経理業務に携わっているようなケースは多く見られます。経営者としてはリスクと感じて欲しいところです。

そこで不正経理を防ぐためのバランスがとれた策としてお勧めしたいのが、経理業務の見える化とアウトソーシングです。経理業務をマニュアル化、見える化し、誰にでもできる業務にすることで業務のローテーションが可能です。また業務の一部だけでもアウトソーシングすることで、社員を増やすことなく第三者のチェックを受けられる体制が構築でき、不正の生まれる機会を塞ぐ効果が見込めます。不正の防止は会社にとってだけでなく、同時に出来心で不正に関わるという誰にも起こりうる恐れから社員を守るものなのです。

MARKコンサルタンツの「経理業務支援サービス」は不正経理を抑止する手段になります。このコラムを読んで、自社のリスクに気がつかれた経営者の方は、ぜひご検討下さい。

石川五右衛門が言うように「盗人の種」は尽きないのならば、「横領・着服の種」も尽きません。しかし、その種から不正の芽を生やさないようにすることが、経営者の果たすべき責任だと考えます。

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