江戸時代の経理のプロ
「経理のコラム」では、様々な切り口で経理の仕事や、業務に携わる経理部長や経理担当者に関する話題を提供しています。これまでにAI(人工知能)やDX(デジタルトランスフォーメーション)を活用した未来の経理業務について考えるコラムもありましたが、今回は未来ではなく過去、それも江戸時代(幕末)から明治の初めにかけての経理にまつわる話題です。
それは加賀百万石で知られる前田家の「卸算用者(ごさんようもの)」という役職をつとめた猪山家の話です。加賀藩の御算用者とは、いわば「加賀百万石の算盤(そろばん)係」です。会計処理の専門家、つまり経理のプロということになります。
猪山家の系譜
以下は磯田道史著『武士の家計簿-「加賀藩御算用者」の幕末維新』(新潮新書)によります。
猪山家初代猪山清左衛門から数えて五代目猪山市進(いちのしん)が享保16年(1731年)に前田家に「御算用者」として採用され、直参(主君に直接仕える家臣)となります。御算用者になるには筆とソロバンに優れた「筆算」の才が必要です。当時武士、特に上級武士には、算術は賤しいものと考えられていて、その知識の習得には熱心ではありませんでした。ソロバン勘定などは「徳」を失わせる小人の技と考えられていたからです。
しかし、猪山家はそれまで仕えていた菊池家という藩士の家で代々ソロバンをはじき帳簿をつける「武士らしからぬ技術」を身につけていましたので、その腕を見込まれ、それが加賀藩御算用者という栄転につながったわけです。
通常、武士の世界は世襲制で、藩の行政機関も厳しい身分制と世襲制で任用がされていましたが、算術は世襲に向きません。親は算術が得意でも、その子が得意とは限らないわけで、御算用者は比較的身分にとらわれない人材登用がなされていたのです。
実は「算術から身分制度がくずれる」という現象は、18世紀における世界史的な流れでした。ヨーロッパでも日本でも「身分による世襲」という国家や軍隊をつくる原理がくずれ、その後「個人能力による選抜試験」によって任用される近代官僚制に変わっていくのですが、最初にこの変化が起きたのは「算術」にかかわる職種でした。砲兵将校や工兵、地図作成の幕僚には、弾道計算や測量で数学的能力が必要なため、ドイツでもフランスでもこうした能力に優れた平民出身者が貴族に代わり登用されていったのです。
さて、猪山家は結局、御算用者として九代目の猪山成之にいたるまで、歴史でいうと明治維新まで前田家に仕えましたが、それには幸いなことに代々頭脳明晰な男子が生まれたことに加え、このポストを維持するため一家総出で息子たちに「筆算」を仕込んだことにあるようです。
その後、成之は幕末の激動期に加賀藩の兵站事務を担当することになり、これを見事に成し遂げたことで明治新政府の「軍務官会計方」にヘッドハンティングされ、明治2年(1869年)には新政府軍務官の「会計棟取」まで出世しました。そして明治3年(1870年)には誕生したばかりの日本海軍の会計を担当します。
一方で多くの士族は特権を奪われ、没落しました。「武士の商法」を試み、失敗した例も数多くありました。その中で加賀藩最後の経理部長は、加賀藩なきあと国(明治政府)の官僚として活躍したわけです。
歴史から学ぶもの
著者は本書の最後にこう結んでいます。
「(私は)猪山家の人々から、大切なことを教えてもらったように思う。大きな社会変動のある時代には、「今いる組織の外に出ても、必要とされる技術や能力を持っているか」が人の死活をわける。かつて家柄を誇った士族たちの多くは、過去をなつかしみ、現状に不平をいい、そして将来を不安がった。彼らに未来はきていない。栄光の加賀藩とともに美しく沈んでいったのである。一方、自分の現状をなげくより、自分の現行をなげき、社会に役立つ技術を身に付けようとした士族には、未来がきた。」
新型コロナ後の社会
さて、新型コロナによるパンデミックに襲われている現代ですが、コロナ後の社会はそれ以前とは大きく変動すると言われます。さまざまな議論はありますが、前提となるのが「以前と同じ社会には戻れない」という考え方です。
新型コロナのおかげで、例えばテレワークで自分のペースに合わせて仕事を片付けたり、オンライン授業で勉強したり、議論ができる現実は、これまで込み合う電車に揺られ、会社や大学へ通っていた当たり前の行動が、実は必然性のないものであったことを気づかせてくれました。ニューノーマルは以前のノーマルとは別物です。
幕末から明治維新の大きな社会変動の中で、生き残り、成功を遂げた猪山家から分かるように、大きく社会が変わるアフターコロナの時代に必要とされる技術や能力を見極め、早めに対処しておかないと、待っているのは明治はじめの没落士族の姿です。
令和時代の経理のプロである経理部長の皆さまへ
経理業務はルーティンが多く、属人化しやすいため、とりたててトラブルや問題が起きなければ、あまり変わらない日常が続き、気が付くとその時の社会が必要とする技術や能力を身につけることに遅れを取りかねません。
カエルを冷たい水に入れ、火をかけて水温を少しずつ上げていくと、カエルは温度の変化に気づかずじっとしているため、気がつくと最後は熱湯でゆで上がって死んでしまうという「ゆでガエル」のたとえがあります。
現状維持を好み、環境変化に目を背けていると、刻々と変化する状況にもかかわらず、「まだ大丈夫だろう」「もうしばらくは今のままだろう」とぬるま湯に浸かっているうちに対応できなくなるほどに問題が悪化してしまうということです。
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