DX(デジタルトランスフォーメーション)は、間接部門を消滅させるのか?(前編)
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?
本記事では「DX(Digital Transformation|デジタルトランスフォーメーション)」の意味や定義から、間接部門はDXの台頭をどう捉えるべきか?と言った考察までを簡潔に説明していきます。
ウィキペディアによると、DX(デジタルトランスフォーメーション)は以下のように定義づけられています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、2004年にスウェーデンのウメオ大学教授、エリック・ストルターマンが提唱したとされる「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念の事です。(ウィキペディアより引用)
一方、経済産業省が2018年に設置した「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」でまとめられた「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」では、DXを以下のように定義しています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」(経済産業省 ウェブサイトより引用)
DXは、消費者サイドから見ると「IT技術の進化によって生活の質が向上する」というポジティブな印象ですが、企業サイドから見ると「IT技術の進化を含むビジネス環境の激しい変化に対応できない企業は、優位性を失い競争に勝つことができない」というような極めてネガティブな印象を受けます。
果たして、企業はこのDXに対してどのように向き合っていくべきなのでしょうか?
参考資料
DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(本文)
(PDF形式:4,895KB)
経済産業省 ウェブサイトより
2025年の崖
前述の経済産業省が2018年に発表したレポートによると、2025年にデジタルの世界では経営面・人材面・技術面において、次のような理由から様々な問題の顕在化が懸念されています。
経営面における問題
- 基幹系システムを21年以上使用している企業が6割になる
人材面における問題
- IT人材不足が約43万人まで拡大
- 古いプログラミング言語を知る人材が供給できなくなる
技術面における問題
- 2027年に多くの日本企業が導入しているSAP ERP(ドイツのSAP社のERP-統合基幹業務システム)の保守サポートが終了する
- 従来のITサービス市場とデジタル市場の比率が、9対1から6対4になる
これらの問題に対し、企業がデータとデジタル技術を活用して顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること(=DX|デジタルトランスフォーメーション)を2025年までに実現できないと一気に『崖』から転落するかのように事業が立ち行かなくなってしてしまう。
この危機的課題全般を経済産業省が『2025年の崖』と総称し、企業に対して速やかな変革を促しています。
日本国内における『2025年の崖』への取り組み状況は?
では、あと4年後に迫るこれらの課題に対して、日本国内における企業の取り組み状況はどうなっているのでしょうか?
昨年(2020年)12月に出された「DXレポート2 中間取りまとめ(PDF)/経済産業省」によると、現状は実に全体の9割以上の企業がDXにまったく取り組めていないレベルか、散発的な実施に留まっていると言います。
2025年を待たず、コロナ渦によって図らずも事業環境の変化によるリスクの重大さを目の当たりにした企業が、素早く変革し続けることの重要性を身をもって知ったにも関わらず、わずか1割程度の企業しかDXに取り組むことができていないという事実には大きな懸念を抱かずにはいられません。
テクノロジー=AI、経営政策=DX
ある製品や技術が世の中に大きなインパクトを与える根拠として出てくる言葉をマジックワードというそうですが、今のマジックワードはDX。メディアもITベンダーもDXで花盛りですが、ちょっと前まではAI(人工知能)だらけでした。ふたつは似たような言葉で、テクノロジーで言えばAI、経営政策で言えばDXといった違いです。
ところで、経理・総務・人事といった間接部門の業務は、デジタルトランスフォーメーションの台頭によって業務そのものや組織、プロセスを変革した結果、いらない仕事になってしまうのでしょうか?
間接部門はDXの台頭をどう捉えるべきか?
そもそも間接部門は、営業や製造といった企業の売上に直接影響を与える直接部門を支える業務を担っています。いわば企業経営の基盤となる重要な役割を果たしているわけですが、往々にして「利益を生まない、単にコストになる部門」と捉えられがちで、業務削減やリストラがされやすい部門と思われていることは否めません。今後AIが進化し、DXが普及すると、人手は要らなくなり失業するのではないかと多くの人が懸念しています。
機械が人に取って代わる職種には2種類あります。「人が足りない職種」と「人が要らない職種」です。さて、間接部門はどちらでしょうか。
例えば、経理担当者に必要な資質として、スピードと正確性があげられますが、どちらもAIが最も得意とする分野です。そこから経理業務はAIに仕事を奪われる代表的な職種だと考えられています。つまり経理部門は「人が要らない職種」になるわけです。もしあなたが経理担当者だとしたら、AIの台頭は歓迎できるものではないでしょう。
しかし、コスト削減や間接部門の生産性の向上を考えない経営者はいないわけで、DXへの関心が高まるのも当たり前のことです。
こうした状況を前にして、私たちは間接部門の在り方をどう考え、どう備えたら良いのでしょうか。
歴史から見る間接部門と技術革新の関係
『迫り来るロボットショック。息子たちに仕事はあるか』
経済誌「日経ビジネス」の1983年4月5日号の特集記事の見出しです。この記事によると、この当時初歩的な知能ロボットが登場し始めており、記事には「5、6年後には大きな生産システム革命が起こるだろう」という電機メーカーの談話も載っています。意外な早さでロボットショックは到来し、次世代、すなわち息子たちは完全にその渦中にあるだろうと予想されていたのです。しかし、実際はそうはなりませんでした。
これは、『逆・タイムマシン経営論』(楠木建、杉浦泰・著、日経BP、2020)という本に紹介されている事例です。著者は記事中の「ロボット」を「AI」に置き換えて読めば、今のAIに関する記事にそっくりだと言っています。
本記事中の『2025年の崖とは?』の項で、SAP ERPに関する問題点に触れましたが、この本でもERPについての記述が見られます。
1990年代後半、我が国で普及途上にあったERPは「魔法の杖」のように捉えられていたようです。バブル崩壊でダメージを受けた企業のコスト削減を実現する救世主としてERPはブームとなります。
1996年1月22日号の「日経ビジネス」の特集記事には『要らない仕事 業革の秘密兵器ERP』というタイトルに続き『2001年、あなたは…。あるホワイトカラーの転身物語』という小見出しが付けられています。
ERFの台頭によって、ホワイトカラーの失業者が大量発生するのではないか?という不安を煽る見出しは、当時ERPが従来の業務フローにとって代わる革新的な技術として注目を集めた事を物語っています。しかし、実際には2000年頃にその導入の難しさが共通認識となるのと同時に、さまざまな原因から、むしろERPが業務改革のボトルネックになる事例が続出します。
その後20年が経過した現在、ERPは業務効率化のツールとして定着していますが、上述の記事のタイトルにあったようなERPによってホワイトカラーの失業者が大量発生するという事態には発展しませんでした。
一般に新たな技術やツールの登場により、なくなる仕事があっても、逆に生産性が大きく向上することで全体として経済が発展し、イノベーションにより新たな仕事が生まれることで、労働力は吸収されると考えられています。
こうした過去の例からみると経理業務のような間接部門の仕事がAIに奪われてもそれに代わる新しい仕事が出現し、「AI失業」はそれほど心配しなくてもよいようにも見えてきます。(3月公開予定の後編に続きます)
DX(デジタルトランスフォーメーション)が、間接部門を消滅させる?(後編)に続きます。
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